めくるめくメルク丸

ゲーム/哲学/人生

ノベルゲーム『非実在都市伝説の作法 Imaginary Fakelore』レビュー

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『深夜徘徊のための音楽 beats to relax/stray to』が2020年ティラノゲームフェス・審査員特別賞を受賞した、Plastic Tekkamakiさんの2作目をプレイした。


相変わらずタイトル画がクール。そして音楽がまっさきに耳に飛び込んでくる。
メロディもビートも『Lowfi-Hiphop』というカテゴリーに括れないほど多彩、かつキャッチー、エモーショナル。これは「BGM」ではなくて「トラック」と呼びたい(下記bandcampで全曲試聴可)。

エモなトラックの上に、饒舌なダイアローグ(時おりモノローグ)がライム/フロウのように乗っかって、最後までひと息に読ませる。


前作は、心地よく閉塞した空気——深夜の寂れた町、兄妹による緊張感と思い遣りが滲み出す絶妙な会話劇——が自分の内に忘れ難い寂寥感を生んでいた。

今作は、どこか似た者同士の主人公2人(編集者兼ライター)が「都市伝説の取材」を目的に、路地裏に潜む第三者と次々と対峙していく——そんな何処か探偵小説的で、ソリッド、「開かれた」空気が全編に漂う。

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前作では古き良きコマンドADVのように抽象化されていたキャラグラフィックはカラフルに描きこまれ、巻き起こる剣呑な事件、登場人物たちが語る内容も比較的「通俗」に寄っている。

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深夜/寂れた町を舞台にした前作から、社内/車中/路地裏という、おもに日中の現実世界が描かれた本作。

しかし深夜から真っ昼間へ、1人称から3人称に寄っても饒舌に、縦横無尽に展開する立板に水の如き対話と、ビートの立ちまくったメロウなトラックが織り成す独特のムードに、前作とは違った感触の「心地よい共感と疎外感(と言うべきか)」に酔いしれたのだった。

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本作では「出会いと共働」が、孤立した自我から「他者/世界を受け入れること」へとゆるやかに変化していく心情と風景のグラデーションが描かれているように思う。
プレイ後、無性に誰かと語らいたくなる、センシティブなデジタルノベルだ。

ノベルゲーム好きもLowfi-Hiphop好きも、そうでない方も、ぜひプレイしてみてほしい(BGMは最大音量、メッセージスピード最速/Autoで、好きな飲みもの片手に一気にプレイするのを個人的におすすめしたい)。

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