めくるめくメルク丸

ゲーム/哲学/人生

『春ゆきてレトロチカ』レビュー(コーヒー×ミルク対話編)

第1章 "レトロチカ借りに来た妹"

午前9時22分、都内アパートの一室。筆者(ラブムー)がモニタの前でコントローラーを握ったままテーブルにつっぷしている。私の周囲には空き缶と書籍とゲームが散乱している。いつものように。そこにやってきたのは……

ドンドン!(ドアが叩かれる音)

ラブムー「誰だよ、土曜の朝っぱらから......あ、もしかして一昨日注文したビール1ダースかな?」

ダンダンダン!!(さらに強いノック)

ラブムー「はいはい、今出ますよっと......」(瞼をこすりながら)

カチャカチャ......ガチャッ

ふみえ(ラブムーの実妹。ゲーオタOL)「兄ちゃん、おっはよー!」

ラブムー「なんだ、ヤマトさんじゃなくてお前か......」

ふみえ「なんだじゃないわよ、いつにも増して目の下クマだらけだし、40も過ぎて、まーたゲームでオールしてたんか」

ラブムー「お前と違って遊び半分・お仕事半分なんでな。それにお前だってもう立派なアラフォーゲーマーじゃねえか」

ふみえ「あたしはいいんだよ、ちゃーんと毎朝起きて会社行ってるし、週末はせっせとジム通ってるし、ピラティスだってやってるし、兄ちゃんと同じでゲームは子供の頃から大好きだけど、徹夜でやったりしないから肌もツルツルしてるやろ」

ラブムー「はいはい、待ってろ、今目覚めのブラックコーヒー淹れっから」

ふみえ「あたしはミルクたっぷりカフェ・オ・レにしてもらえる? 今日はさ、ゲーム借りに来たの。もうクリアしてるよね? レトロ・チ・カ」

ラブムー「タイミング良いな、ちょうど今朝終わったとこだ」

ふみえ「なんだあ、発売日に買ったって言ってたからとっくにクリアしたと思ってたわ。遅くね?」

ラブムー「そのつもりだったんだが、思ったよりボリュームあってな。てか、
お前、そんな楽しみにしてたんならゲームの1本くらい自腹で買えや」

ふみえ「だって、レトロチカってクリアしたら周回プレイしなさそうじゃん。エンディングはひとつだけってTwitterに書いてた人いたよ」 

ラブムーTwitterを鵜呑みにするな」 

ふみえ「マルチエンディングなの?」

ラブムー「や、たぶん違う」

ふみえ「じゃあ正しいじゃん、Twitter笑」

ラブムー「マルチエンディングじゃないからって、周回プレイしたくならないとは限らんだろうが」(コーヒーとカフェオレの入ったカップをテーブルの上に置く) 

ふみえ「あ、お砂糖もちょうだい」

ラブムー「はいはい」

ふみえ「(カフェオレをすすりながら)それで......どうだったの?」 

ラブムー「何が?」

ふみえ「だから、春ゆきて」 

ラブムー「レトロチカ......ああ、良かったよ」

ふみえ「あっれ、昔っから推理ものADVに厳しめな兄ちゃんにしては意外な。面白かったんだ?」

ラブムー「面白かったとは言ってない、良かったとは言ったが」

ふみえ「どう違うわけ?」

ラブムー「面白かったとかつまらなかったっていうのは、あくまで主観的な感想だろ。俺が良かったと言うのは、このゲームを現代においてリリースした意義はばっちりあったってこと」

ふみえ「はあ......(めんどくさ)。じゃあ、面白くはなかったわけ?」

ラブムー「だから、面白かったとかつまらなかったとかそう簡単には言えないんだって。俺はこれでも『批評』をモットーにしたゲームライターなんだから」

ふみえ「ゲームライターなら、どこが面白くて、どこに引っかかったのか、かいつまんで聞かせなよ。ネタバレのたぐいはなしで。あと、ミステリオタクっぽい小難しい話もなしね」

ラブムー「まあ、今日はひと眠りしたら某Webメディアに送るレビュー原稿書くつもりだったからな......ここはひとつ頭を整理するために、お前がそのカフェオレ飲み終わるまでの間に、本作についてざっと整理してみるか」

ふみえ「しつこいけど、ネタバレ絶対なしでよろしく」

第2章 "仮説のバカ"

ふみえ「なんかさ、紹介動画で見たんだけど、レトロチカって物語パートと推理パートが完全に分かれてるじゃない? あれってどうなの?」

ラブムー「どうって?」

ふみえ「物語パートは、テレビドラマ観てるみたいにプレイヤーは画面をじっと見てるだけな感じ?」

ラブムー「や、物語パートでも途中で主人公の行動とか台詞を選ぶ選択肢がちょくちょく入ってくる」

ふみえ「そこはノベルゲームの分岐みたいな感じになるわけか」

ラブムー「うーん、正直、ちょっとどうかな、と思ったね。せっかくノンストップで再生されてるフルムービーを止めてまで出すような選択肢なのかなって。っていうのも、その選択で先の物語が大きく変化するわけじゃないからさ」

ふみえ「じゃあ、選択肢は何のためにあるの?」

ラブムー「おおむね、プレイヤーに物語の筋や主人公の思考をしっかり把握させるためなんだろう。たださ、その選択肢があんま迷える感じじゃないんだよね。こっち選んだらヤバいかも......みたいな緊張感が希薄。そのへんは同じく実写ドラマを軸にした『デスカムトゥルー』とかnetflix『ブラックミラー・バンダースナッチの方が遥かに選択肢の必然性があった。あとは洋ゲーだけど『LATE SHIFT』とかも」

『デスカムトゥルー』(2020)

ふみえ「さっすがオタ兄。まあ、あたしも全部プレイ済みだけど。じゃあ、推理パートはどうだった? かなり独特なUIじゃない?」

ラブムー「推理パートのUIや操作性が判りづらくてダメって言ってるプレイヤーもいるけど、俺はそれは思わなかったな。Steam版ならマウスで直感的な操作ができるだろうし、コントローラーでの操作も30分もすれば慣れると思うぞ」

ふみえ「あたしが動画で見た感じだと、ドラマも時系列で確認できるし、手がかりとか言動の断片がずらっと並んでて、それをマインドマップみたいなところにカチカチ嵌め込んでいくじゃない? こういう推理ゲームってこれまで見たことないし、単純に面白そう!って」

ラブムー「うん、ただ、推理パートは10年前に出た本格推理ゲームTRICK ×LOGIC』をモロ彷彿とさせるよね」

ふみえ「トリロジ! 懐かし。PSP時代に兄ちゃんに借りたわ。面白かったけ ど、めっちゃ難しかった記憶ある」

TRICK×LOGIC(2010)

ラブムー「あれはやりごたえあったよな。『TRICK×LOGIC』と『春ゆきてレトロチカ』は同じディレクター(伊東幸一郎氏)だし、優れたシステムだから流用すること自体は全然良いんだけど、問題はこのシステムが今作でも効果的に、十全に働いているか?ってことだな」

ふみえ「トリロジって全編推理小説みたいなテキストベースだったよね?」

ラブムー「そう、対してレトロチカはFMV(実写動画)ベース。あと、トリロジは推理ゲームとか推理小説に慣れてるプレイヤーでもかなり難しかったからね。今回、多くの人に推理ゲームを楽しんでもらうためにあのシステムを使いつつ、推理ゲームとしての敷居は下げようっていうコンセプトなんだと思うけど」

ふみえ「つまり『春ゆきてレトロチカ』は、全編実写動画ベースのミステリと『TRICK×LOGIC』のシステムを混ぜ合わせて万人向けにした推理ゲームってことか。ちょうどこのカフェ・オ・レみたいに、濃いコーヒーとあったかいミルクを混ぜ合わせて飲みやすくした、みたいな」

ラブムー「まあ、その喩えはそこそこ合ってるかもな(次に書く記事で使わせてもらうとするか…)。ただ、推理パート部分はいささかカタルシスに欠けると思った。手がかりとか言動は『TRICK×LOGIC』と違って、あらかじめ抜き出されてて、プレイヤーがそれをかちかち嵌め込んでいくことで仮説がぽんぽん生まれるんだけど......」

ふみえ「仮説って?」

ラブムー「つまりさ、フーダニット(誰がやった)、ホワイダニット(なぜやった)、ハウダニット(いかにしてやった)の有り得る可能性が仮説としてどしどし提示されるわけ。それは良いんだけど、気になったのは、深く考えずに手がかりを適当に嵌め込んでいくだけで仮設が出来てしまうってとこ」

ふみえ「古き良きアドベンチャーゲームのコマンド総当たりみたいな?」

ラブムー「まあ、そんな感じか。プレイヤーが事件を推理するまでもなく、適当に手がかりのピースを嵌め込んでいっても、ほとんどの仮説は出揃ってしまう」 

ふみえ「ふむふむ......じゃあ、推理する手応えみたいのは全然ないの?」

ラブムー「全然ないとは言わない。が、今作の推理パートは『TRICK×LOGIC』と表面上は似てても、遥かに受動的な感じがしたな。正しい推理の道筋は真っ直ぐに用意されてて、プレイヤーはそれを後からなぞるだけっていうような局面が多かった。それに......」

ふみえ「まだ文句あんのか」

ラブムー「浮かび上がってくる仮説のほとんど、とは言わないまでも、半分くらいがあまりにもお粗末なシロモノなんだよね」

ふみえ「たとえば?」

ラブムー「被害者が後頭部の打撲で死んでるとするじゃん。その仮説として、「被害者は、バナナの皮で滑って転んで亡くなったのかもしれない」とか「凶暴な動物に襲われたのだろう」みたいのがばんばん出てくる。これ、実例まんまじゃないよ。ネタバレしたくないから。そのくらい突飛だったり馬鹿らしいってこと」

ふみえ「ふあー」

ラブムー「もちろん、ちょっとくらいはそういうのあっても全然ご愛嬌だし、スパイスにも成り得る。ただ、今作はそういう馬鹿馬鹿しい、笑えない仮説があまりに多い。これ、隙間を埋めるために無理矢理作ったのでは? みたいな」

ふみえ「なるほどね。おいしいカフェ・オ・レにシナモン振りかけすぎちゃった? みたいな。で、その仮説の中で正しいのを結びつけて、解決篇に行くわけか」

ラブムー「全6章、基本的には問題篇、推理篇、解決篇って順繰りにプレイしていく。あ、ただ、解決篇の直前に考察のまとめみたいなことを行うんだけどさ」

ふみえ「ああ、トリロジにもあったよね。これこれこういう根拠で、犯人はこの人にちがいない!みたいな」

ラブムー「そう、仮説の断片を集めて、もっともらしい推理を作るわけ。そこで推理の道筋がだいたい出来上がったら、ようやっと解決篇に至る」

第3章 "既視感の無さ"

ふみえ「で、解決篇はまた実写ドラマパートに戻るんでしょ?「....あなただったんですね?」みたいに目の前の容疑者に直接突きつけるお約束のやつ。めっちゃ期待してるんだけど。スリルありそう」

ラブムー「たしかに解決篇は途中、いくつかの重要な問いに対して毎回正解を選ばないといけない。ただ、間違えても推理パートに戻されるだけで、緊張感はそこまでない。その点、『逆転裁判』とか『TRICK×LOGIC』はやっぱ上手かったよね。 鬼気迫る緊張感と意外性があった」

ふみえ「レトロチカの解決篇は、間違えてもペナルティみたいのはないの?」

ラブムー「ミスった回数も記録されてて、シナリオクリア後にランクが出るから、一応ペナルティはある。ただ、それだけじゃ絶対間違いたくないっていう気持ちにはならないんだよな」

ふみえ「じゃあ、途中でプレイヤーが思考を整理したり推理するパートはあるものの、基本は1本道のノベルゲームみたいな感じなのかしら」

ラブムー「かしらって笑。や、1本道のノベルゲーとも違うね。で、それは本作の美点というか、評価すべきポイントと思う。連続テレビドラマっぽくもあり、 実写ノベルゲーのようでもあり、『TRICK×LOGIC』っぽさもあるんだけど、結果どれとも違った、既視感の無いゲーム体験になってる」

ふみえ「オリジナリティがあるってこと?」

ラブムー「そう。素材は実写ドラマ、ノベルゲーム、キーワード嵌め込み型の推理ゲームと、エポックメイキングな新機軸はない。にもかかわらずその3つが合体することで、新鮮味のある新しいADVになってる。ただ......」

ふみえ「ただ?」

ラブムー「残念なのは、1本のミステリドラマとしても、推理ADVとしても”新本格”を銘打ってるわりには中途半端な仕上がりに感じてしまうこと」

ふみえ「でもさ、それはお兄ちゃんの主観でしょ。あたしはレトロチカのストーリーも推理パートもめっちゃ楽しみにしてるわよ」

ラブムー「たしかにストーリーへの評価は人それぞれだろうな。ただ本作において、推理ゲームの側面がいささか弱いのは仕方ないのかもしれないとも思った」

ふみえ「なんで?」

ラブムー「つまりさ、長尺の実写ドラマとテキスト・キーワードベースの推理ゲームっていうのはあまり相性が良くないんじゃないかと」

ふみえ「ちょっとわかんない。具体的に言って」

ラブムー「たとえば過去のある言動を振り返る時、小説やノベルゲームでページをめくって戻るのと、実写動画を巻き戻して確認するのとでは体験として違うじゃん。レトロチカは、物語パートは実写動画で、推理パートはテキスト主体だからそこにちぐはぐ感、もっと言えば乖離があると思う」

ふみえ「うーん。たしかに小説で得られる面白さと実写映画の面白さって、根本的に違うよね。好きな推理小説が映画化された時、よく思ったな。『イニシエーション・ラブ』にしても『ソロモンの偽証』にしても、映画になるとこうも変わっちゃうのか!って」

ラブムー「そう。実写ドラマが立ち上げる世界と小説が表現できる世界。どちらが『本格推理ゲーム』との相性が良いかっていうと、乱暴に決めつけてしまうと、やっぱ小説だと思うんだよね」

ふみえ「でも兄ちゃんさ、実写動画にしかない良さっていうのもあるじゃん?」

ラブムー「そりゃあるよ、もちろん。それは最後に述べるとして、今いっこ思ったのは、本作みたいな実写動画ベースだと地の文がなくても成り立つよね」

ふみえ「地の文?」

428〜封鎖された渋谷で〜(2008)

ラブムー「『と、◦◦は言った』、とか『早朝の山並みは清々しく煌めいていた』 とかそういうの。そういう説明や描写に頼らない実写ドラマは、推理小説とは違った魅力があるって改めて感じた。何しろ、画面に映っている人・もの・環境が全てなわけだから。 もし本作が『428』みたいな一枚絵とテキスト中心の実写ノベルゲームだったら、本作特有のダイレクトな没入感は生まれなかったはず」

ふみえ「なるほどね」

ラブムー「たださ」

ふみえ「でたでた、オタ兄の付け足しエクスキューズ…!」

ラブムー「それでもなおかつ、本作で俺が思ったのは、やっぱり推理ゲームはどうしたって『テキスト』から逃げられないってことなんだよな。もしいつの日か、完全にテキストレスの本格推理ゲームの傑作が出てくることがあるとしたら、本作はそこに至るための過渡期的であり、記念碑的な作品ってことになるんじゃないかな」

ふみえ「そういう意味で、最初に『春ゆきてレトロチカ』は良いゲーム――リリースする意義があるゲームって言ってたわけか、オタ兄は」

ラブムー「そうそう。こんなに手間も製作費もかかる作品を良く作ってくれたなあって。スクエニみたいな資本の大きな会社じゃないと、ここまで大掛かりな野心作ってまず作れないじゃん。これを企画して、実際に作ったことが凄い」

第4章 "それは記念碑的な......"

ラブムー「あとさ、ただでさえインタラクティブ性のあるゲームの中で生身の俳優さんが演技するっていうのは、やっぱめちゃくちゃ大きいよね。物語が進めば進むほど、キャラクターに対する感情移入度が右肩上がりに高まっていく」

ふみえ「あ、桜庭ななみさんのファンになっちゃった?」

ラブムー「(無視して)序盤は物語全体をけっこう醒めた目線でプレイしてたんだけどさ、俳優さんたちの熱演を何時間も続けて見て、自分でも推理してるうちに、 もう、このゲームはこれだけで尊い。良いもの見せてもらいましたって気になってくる。この感じって映画でもドラマでもまず味わえないよね。むしろ演劇とか芝居に近い感じがした」

ふみえ「わかった、真飛聖さんの美魔女ぶりにやられたのね!」

ラブムー「......」

ふみえ「あと兄ちゃんさ、もいっこ良い? このゲームの物語設定って、3つの時代を跨いでて、メインの出演者は同じ役者さんを使い回してるじゃない。そこはちょっと出演料削減?って思っちゃったんだけど」

ラブムー「マルチロールシステムな。俺も最初はそう思った。けどさ、これがプレイしてるうちに、同じ俳優を用いた狙いがわかってきたんだよ。この人、次のシナリオではどんな役で、どんな演技を見せてくれるんだろう? ってだんだん楽しみになった。役者さんたちも物語全体への理解・没入度に繋がっただろうし」

ふみえ「ふむふむ。つまり、プレイすればするほど、松本若菜さん推しになったってことだね?」

ラブムー「(無視して)たしかに生身のキャラクターの魅力、あと実写動画の推進力っていうのは相当に強力だよな。その意味でもこの作品の試みはおおむね幸を成してると思った」

ふみえ「じゃあ、『春ゆきてレトロチカ』をどのような人にオススメする?」

ラブムー「本格推理ゲームをしたいっていう人には、正直諸手を挙げてオススメはしない。そういう人にはもっと頭を使う推理ADVがあるからね。あと、『かまいたちの夜』とか『428』みたいなサウンドノベルがやりたいっていう人にもnot for youかな。さっきも言ったけどノベルゲー的な面白さは希薄だから」

ふみえ「もう! notばかりじゃなくて、声を大にしてFor you!な人を言いなさいよ」

ラブムー「本作に出演してる俳優さんの中で、所謂「推し」がいる人は相当に楽しめるはずです。あと、連続ドラマや邦画のサスペンスものが好きで、これまで推理ADVにそれほど触れたことがないっていう方も買ってソンしません。あと、 これまでにないような手触りのADVゲームを探してる人は絶対やった方がいいです」

ふみえ「でも、邦画1本って考えると......ちょっと価格が高いのかな?」

ラブムー「や、俺も最初はそう思ってたんだけど、最後までプレイしたら、これほど魅力的な俳優さんたちが熱演してる作品に対して、高いとは全く思わなかった」

ふみえ「もしかして......平岡祐太さん推しになった? 似合ってるもんなー、みやびな和服姿」

ラブムー「なあ、妹よ。さっきから黙って聞いてたら、かつて長年起居を共にした妹ながら、お前は俺のことを全くわかってないようだな......」

ふみえ「え、どうして?」

ラブムー「だって、俺がこの作品の中でもっとも胸熱だった俳優さんは......ごにょごにょ」(耳打ちする)

ふみえ「えええー! それは意外」

ラブムー「最後までプレイしてみれば、わかるって! あ、ちなみに本作、最終章は見逃しやすいからくれぐれも気をつけろ。これやらなきゃ話にならんってくらいの超重要シナリオなのに、何故か隠しシナリオレベルの判りづらさだから」

ふみえ「そうなんだ! それは聞いといて良かった」

ラブムー「そして最後に声を大にして言っておきたいのだが」

ふみえ「どーぞどーぞ」

ラブムー「本作のゲーム史的意義はずいぶん大きいと思う。これほど長尺、かつ高いクオリティで制作された実写動画メインの推理ゲームをプレイしたのは長年ゲームやってきて初めてだった。 推理ものADVとしての好みや出来不出来はさて置き、この長大な実写推理ゲームの完成をまずは寿ぎたいと思う。そして次なる実写新本格推理ゲームの登場に繋げて頂きたいと、いちゲームファンとしてせつに願う」

ふみえ「あなた、最後に良いこと言ったかも。あたしもプレイするの楽しみになってきたわ。じゃあこの週末に一気に最後までやろーっと(『春にしてレトロチカ』パッケージを手にして立ち上がる)。じゃ兄ちゃん、サンキューね」

ラブムー「ボソ......(ゲーム好きの妹がいて良かったわ)」 

ふみえ「何か言った?」

ラブムー「言っとらん。こちとら眠くてもうぶっ倒れそうだから......またな!」

FIN

(もし私にゲーム好きの妹がいたら、本作『春ゆきてレトロチカ』クリア後にこうした対話が繰り広げられたかもしれない。しかし現実の私にはそんな妹はおらず、この対話はクリア翌日、私の脳内で夢想されたものだ。
そしてこの架空の対話が端緒となった、次なる記事『春ゆきてレトロチカはおいしいカフェ・オ・レになったか?』(考察編)も只今準備中。もうしばらくお待ちを……)

筆者と妹(に非ず)