めくるめくメルク丸

ゲーム/哲学/人生

改めて自己紹介させてください(ラブムー)

こんにちは。いきなり&今更なのですが、改めての自己紹介みたいなことをさせて頂きたく思います。
当ブログもけっこう長くやってきたのですが、始めたばかりの頃とは趣味嗜好、仕事、更新頻度、風貌など(笑)だいぶ変わっているので、最近SNSなどで知ってもらった方、知りあった方に、自分がどういう者なのかを改めて書かせてもらおうと思った次第です。

愛月 ラブムーと申します。
「愛月(いつき)」は実名なので、そちらで呼んでもらっても全然かまわないのですが、このブログやTwitterなどゲーム関連では「ラブムー」という名義で活動しています。

ちなみになんでラブムーかと言えば、名前がラブでムーンだからです。ラブデリックという会社が開発したメタRPGゲーム『moon』はオールタイム・ベスト級に大好きですが、それはたまたまであります。

ちなみになんで"ラブムーン"じゃなくて、ラブムーなのかと言うと……深い意味はありません。その方が親しみやすいかも……という(雑誌『ムー』は関係ありません)。

ビデオゲームは幼少期(5歳くらい)から大好きで、「オール・タイム・ベストゲーム10選+10選」をこちらに書いています(かなり長いですが……ぜひ!)。

東京都・渋谷にある國學院大學というやや固めの私立大学で、米文学・仏哲学を専攻しました。卒業論文は「恋愛論の系譜」。現在、ゲーム翻訳をしたり、Webメディア『IGN Japan』でゲーム/映画に関する記事を寄稿しています。創作小説、詩を書きます。2021年に初詩集『月草夜想詩集』を350部出版・販売しました(2024年、Kindle版リリース予定)。また遠い昔ですが、3年ばかり出版社で働いていました(任天堂系のゲーム雑誌や攻略本の編集をしていました)。

ゲーム翻訳

ゲーム翻訳デビューは昨年(2022年)の夏で、大好きなパブリッシャーサポート会社さんから京都Bitsummitに出品されたインディーゲーム『Soup Raiders』を翻訳する機会を頂き、そこからゲーム翻訳者としての道が開けた感じです。

現在、『Milky Way Prince』というBL鬱ノベルゲーム(素晴らしい作品です)新訳版と『Butterfly Soup2』(こちらも)の翻訳を手がけています。どちらも順当に行けば年内にプレイして頂けるかと……ぜひご期待ください。

幼少期からクラシック音楽と喫茶店が好きだったこともあり、2012年〜2020年まで、東京都・国立市でクラシック喫茶『名曲喫茶 月草』を営んでいました。そのご縁で、ヘルベルト・フォン・カラヤンのベストアルバム『カラヤン!カラヤン!カラヤン』(ワーナー)を監修・選曲させていただきました。

いくつかの音楽イベントにオーガナイザー/DJとして関わりました。リアルで人が集まれる場所「飲食店」は自分にとって大切な存在なので、これからもカルチャー・飲食を通じた「場」には何らかの形で関わり続けていきたいです。

本・映画・音楽

とりあえず、最近読んでいた(読んでいる)本を10冊。

●『おかえりアリス』(押見修造)

●『布団の中から蜂起せよ』(高島鈴)

●『ピエール滝の23区23時』

●『言葉の展望台』三木那由他

●『街と不確かな壁』(村上春樹)

●『精神医療のゆらぎとひらめき』(横田泉)

●『ドグラ・マグラ(再読)』(夢野久作)

●『万事快調〈オール・グリーンズ〉』波木銅

●『スピッツ論』(伏見瞬)

●『ゲーテ詩集』(高橋健二訳)

映画の方は最近ほとんど見れていないので、オールタイム・ベスト15本(では足りないけど……)。

●『インランド・エンパイア』デヴィッド・リンチ

●『ふたりのベロニカ』クシュシュトフ・ケシェロフスキ

●『ビフォア・サンセット』リチャード・リンクレイター

●『雨月物語』溝口健二

●『ツィゴイネルワイゼン』鈴木清順

●『ママと娼婦』ジャン・ユスターシュ

●『パンチドランク・ラブ』ポール・トーマス・アンダーソン

●『魂のジュリエッタ』フェディリコ・フェリーニ

●『緑の光線』エリック・ロメール

●『男と女』クロード・ルルーシュ

●『E.T.』スティーブン・スピルバーグ

●『裏窓』アルフレッド・ヒッチコック

●『去年、マリエンバートで』アラン・レネ

●『風立ちぬ』宮崎駿

●『ノスタルジア』アンドレイ・タルコフスキー

●『霧の中のハリネズミ』ユーリ・ノルシュテイン

音楽オールタイムベストは……こっちはあまりに難しいので、また別の機会に。
ちなみに昨年末はインドネシアのNIKIというアーティストの『Nicole』というアルバムばかり聴いていたので、こんなnoteを書きました。

昨年末に編んだ2022年ベストトラックプレイリストも貼っておきます。

好きなものは、ざっくり、お酒、コーヒー、猫、文学、そしてゲームです。
そんな感じの自分ですが、よろしければ気軽にお声がけください。ふつつか者ですが、今後ともどうぞ宜しくお願いいたします。

愛月 ラブムー 2023.5.2

PSVR2 発売日購入レポ

昼すぎ、Sony StoreからPSVR2が届く。同梱されている『Horizon Call of the Mountain』はダウンロードに時間かかりそうなので、後回しにしてさっそく開封。

開封し、本体を持ってみた印象は「軽!」。しかしサイトで確認してみると、PSVRから40g程度軽くなっただけのようだ(600g→560g)。
Oculus Rift Sとほぼ同じくらいの感じで「めちゃくちゃ軽い」というわけでは全くないのだが、PSVRや初代Meta Questを装着した時のような「軽度のつらみ」を感じるような重さではない(ここには凄くビミョーな分水嶺があると感じる)。片手で持ってみて「おっ、これならいけそう」という絶妙な重量感だ。

セットアップ〜装着感

初代PSVRの、何かの儀式のように七面倒なセットアップを経験した者からすると、セットアップは劇的に楽だった。PS5前面にUSBCケーブルを挿し、Senseコントローラー(これ、もう少し気の利いた名称にできなかったのだろうか)を登録し、ヘッドセットを装着したままいくつかの設定を済ませるだけ。開封〜装着〜プレイまで、8分くらいで済んだ気がする。そのあたりやPSVR2の詳細な機能など、IGN Japan誌での渋谷宣亮氏の細やかなレビュー記事に詳しい。

ヘッドセットを頭に装着し、自分にとって適切な位置・視座の設定を掴むのは(解りやすいチュートリアルで導いてもらえるものの)少々困難を伴ったが、これはどんなVRデバイスでもおおむね同じだろう。
PSVR2も前機種
PSVRで推奨されていたように、後頭部中心よりもやや下に後部バンドを固定して(ダイヤルで"締めつけ"を調整することができる)、それを元に、前面レンズの位置などを調整するのがもっとも良さそうである。

(註・後述するが、筆者は上記装着方法だとゴーグルの縁が視界に入ってしまい、『Rez Infinite』のようなゲームでは著しく没入感を添いでしまうように感じた。その後、後部バンドを後頭部中心よりも上方に固定し、ゴムの「ゴーグル部分」を目の周辺に「より、押しつける」ようにセットすることで、ようやく『Rez Infinite』の世界に入りこんだような心地を得ることができた。プレイヤーそれぞれに望む見え方・視座が異なるはずなので、頭の形やタイトルによって、装着方法をフレキシブルに変える必要があるだろう)

ヘッドセット重量バランスと"スキマ"問題

PSVR2は、Oculus RiftやQuest2と比べて本体重量のバランスがすこぶる良いと感じる。前面に集中した重みで、じょじょに頭が前のめりになっていくようなことがない。
筆者は2時間以上連続してプレイしたが、プレイ後の首の疲労感も初代PSVRやOculus Quest2と比べると著しく少なかった。ここは、首の筋肉が欧米人よりも平均的に弱いであろう日本人に最適化してくれているような印象がある。さらにゴーグル下部の「隙間」が没入感を添いでいた(アジア人の顔の形に由るものと言われている)Meta Questシリーズとは違って、完全に覆ってくれるのが実にありがたい。正直、あの隙間は没入感がキモである「VR」というデヴァイスにとって致命傷と感じていたから。

"最初の1本"『Rez Infinite(アップグレード版)』

記念すべきPSVR2初プレイ作品は『Rez Infinite』アップグレード版と決めていた。理由はきわめてシンプルで、前機種PSVRの時もこの作品を最初にプレイしたから(PSVRは本作をプレイするために買ったようなものだった)。

のっけから明らかに画質が良くなっているのがわかる。ほとんど「別物」と言っても良いくらいくっきり鮮明になった。エリアが進んでいくと、「この光のセグメントはこんな造形をしていたのか、こんなに幾何学的でカラフルだったっけ?……といったような素朴な発見と感動がそこかしこに溢れてきた。

BGMは前作と比べて音質こそ違いを感じなかったが、同梱されているイヤフォンを別売りのものにすればかなり変わってくるのだろう。しかし、初代PSVRと違って音量調整ボタンがヘッドセット側に備わっていないのは明確にマイナスポイントと感じた。また、最大音量がPSVR版より小さくなった気もしたが、これはソフト側の設定かもしれない。自分は高めの音量でプレイするのを好むため、基本は最大音量にセットしているが、タイトルによって調整が必要だろう。

Senseコントローラー所感

専用コントローラー「Senseコントローラー」も、やはりOculus Rift S/Meta Questシリーズに酷似している。スティックやボタン配置はDual Senseの延長にあるので操作に違和感がない。このタイプのコントローラーに必須であるモーションセンサー機能も申し分ないが、ホーム画面でもポインティング・レーザーで選択できるMetaシリーズに比べると今のところあまり使う機会がない。Switch分離型ジョイコンのように、Dual Senseの代わりに非PSVRのゲームコントローラーとして使えるとありがたい。(←ホーム画面の操作とVR対応ゲーム以外では使えないようだ)

余談だが、PSVR2にしてもMeta Questにしても、この手首全体を覆う半円のような形態はかさばるので、あまり好みではないのだが、PSVR2もこの形に落ち着いたのは工学上の必然なのだろうか(なのだろう)。

「視野にゴーグル縁」問題

(※以下、前述したヘッドセットの装着方法によって幾分改善されたが、初プレイ時の所感として残しておきます)

『Rez Infinite』プレイ中、画質も操作感も明らかに向上しているのに、何かPSVRのプレイと比べて没入できないというか「"そこ"に入りこんでいる感覚」が希薄なことに、プレイ後すぐに気づいた。それはゴーグルの端の黒縁が、終始視野に映り込んでしまっていることに由るものだ。
これは、自分が当時よりも「ヘッドセットを被っている」という状態に自覚的になってしまったからなのか、あるいはPSVR2の設計によるものなのかはわからない。ただ、初代PSVRで初めて『Rez Infinite』をプレイした時の、あの宇宙に自分がすっかり放り出されたような希有な感覚をどうも得られず(それこそが『Rez Infinite』においてもっとも愛していた感覚なのだが)、PSVR2版では「宇宙船コックピットから宇宙飛行士を眺めているような」プレイ感に変わっていた。『Rez Infinite』はRift S/Quest2でもプレイしているが、件の「スキマ問題」こそあったものの、この「ゴーグル黒縁映りこみ感」はなかったように記憶しているのだが。前機種
PSVRを引っぱり出して比較すればはっきりするのだろうが、自分のPSVRはすでに夭折してしまっている。多くの経験者の意見を聞いてみたいところだ。

『Tetris Effect: Connected』をプレイ

続けて『Tetris Effect: Connected』(アップデート版)をプレイ。こちらも画質アップは一目瞭然だが、360度ユニバーサルに動き回り、視界も目まぐるしく変わる『Rez Infinite』と比べると、グラフィックに対してそこまで大きな感動はなかった(これをプレイした後にPSVR版に戻ったら物足りなさを感じるだろうが)。やはり『Rez Infinite』というタイトルは自分にとってかなり特別なのだろう。細かいプレイ感の違いがいちいち気になった。何にせよ、両タイトルとも1000円でアップグレードできるのだから、PS4版を所持しているファンはプレイしない手はないように思う。所有していない方も、アップグレード版『Rez Infinite』と『Tetris Effect: Connected』をぜひ。ある意味、リリースから数年経っても今なおもっとも「VR」を感じることのできるタイトルだと固く信じている。

映画/ドラマ鑑賞の快適性

2時間半の『Rez infinite』『Tetris Effect: Connected』ゲームプレイ後、『Kayak VR:Mirage』をダウンロードしつつ、Netflixで映画/ドラマを流し観る。映画/ドラマ好きの自分にとって、VRによる映画/ドラマ鑑賞はかなり重要な機能である。しかし前機種PSVRやMeta Quest2ではヘッドセットを被って2時間以上映画鑑賞すると、外した後に首や頭、背中が痛くなり、眠れないことも少なくなかった。

嬉しいことに、PSVR2では高画質で映画やドラマが観られる上に、身体的ダメージもこれまでのVR機器と比べると著しく少なそうである。「シネマティックモード」で画面サイズを変更することも当然できるので、動画鑑賞用ヘッドセットとしても個人的にかなり重宝することになりそうだ。また、PS5で所有している非VR対応ゲームや古いアーケードゲームをヘッドセットでプレイすることも初代PSVRより快適になることは間違いないだろう(アーケードアーカイブスタイトルをPSVRでプレイすることに至上の喜びを感じている友人がいるので、薦めたい)。

PSVR2体験3時間所感・まとめ

このあたりで、いったんPSVR2初回体験記を終えたい。

冒頭に書いたことの繰り返しになるが、自分のPSVR2体験の最初の所感は(画質とスキマ以外は)Oculus Rift Sに酷似しているな、というものだった。初代PSVRをRift Sの進化版を青写真としながらバージョンアップさせたような印象である。もし自分が初代PSVRからVR機器を、具体的にはOculus Rift Sを体験していなかったら、その進化にさらに驚いたであろうことは間違いない。

また、もしPSVR2がもう少し軽量だったか、Rift S/Meta Quest2並みの内蔵スピーカーが備わっていたら——まだPSVR2専用ソフトを1本もプレイしていない今の状態でも——心中で満点をつけていただろう。Oculus Rift S/Meta Quest2の、イヤフォンを接続せずともかなりの臨場感が得られた内蔵スピーカーは、VRを日常に溶け込ませる上でかなり重要な機能であったように思う。

代わりに(と言うべきか)PSVR2に内蔵されている、振動機能は……どうなのだろう? もしこの機能によって重量が増えたのであれば、むしろ省いて軽量化するか、内蔵スピーカーをつけてほしかったという気持ちを拭い去れないところはなくもない。
しかし(言うまでもなく)そんなことは開発者たちによって幾度となく検討・検証されたはずで、これがSIEのVRに対する2023年の答えなのだ、と思って真摯に受けとめたい。

いちPSVRファンとしての結論。再高画質にアップデートされた『Rez Infinite』と『Tetris Effect Connected』をプレイし、快適な映画/ドラマ鑑賞の予感を感じられただけでも、PSVR2は(けっして安くはないものの)意をけっして購入する価値のあるデヴァイスだと思う。

ただ、使っているうちに印象もおそらくどんどん変わるだろう。次回はPSVR2専用ソフト『Horizon Call of the Moutain』や『Kayak VR:Mirage』『ディスクロニア:CA』あたりをプレイしつつ、改めてPSVR2という最先端VR機器の特性について書きたいと思います。ラブムー

『サウンドノベル 街』発売25周年を機に、その「唯一無二性」を考える(後編・対話篇)

2023年2月14日(火)午後1時40分

そこはかなり雑然とした狭い部屋だ。長時間窓を開けていないらしく、空気はかなり"もわっ"としている。
その部屋の住民であるゲームライターのラブムーは、片隅に置かれた小さなコーヒーテーブルにつっぷしていた。
テーブルの上にはPS VITA一番搾りの空き缶3缶、飲みかけの麦焼酎が入った
陶製の器が無造作に置いてある。そこにやってきたのは——

ドンドンドン!

ラブムー「むにゃ……ったく、どこのどいつだよ、日曜のまっ昼間っから……ひょっとして予約したPSVR2か? や、発売日まであと1週間あるし……」

ダンダンダン!

ラブムー「あ、すみません、もしヤマトさんでしたら置き配お願いできます?」

ダンダンダ……

ラブムー「(不織布マスクをつけて)はいはいはい……今開けまっせ」

カチャカチャ……ガチャッ

ふみえ(ラブムー実妹。元渋谷系ギャル。現ゲーオタOL)「ニイ、おっそよー」

ラブムー「なんだ、佐川さんじゃなくてお前か……何の用だ? ホグワーツレガシーなら買ってないぞ」

ふみえデラックスエディションでとっくに購入済みだよ」

ラブムー「何ぃ。なら、何用だ」

ふみえ「ナニ、いきり立ってんのよ。ニイ、こないだ、『街』のことブログに書いてたじゃん?」

ラブムー「これから後編したためてアップするとこだ。お前、『街』やったことあんのか?」

ふみえ「なかったんだけど。ニイのブログ読んで、なんか面白そうだからやってみようかなって、数日前に近所のゲオで買って、高校ん時に使ってたPSPでやってみた」

ラブムー「ああ、俺も記事の前編書いた後、VITAにダウンロードして、昨日20数年ぶりにエンディングに辿り着いたとこだ」

ふみえ「じゃあ兄妹で同じのやってたわけか。超面白いね!『街』」

ラブムー「お、じゃあちっと語らうか。ちな、どのへん面白かった?」

ふみえ「まっさきに感じたのは、当時の——っていうのはあたしが週末マルキューとかセンター街に夜な夜な通ってた2000年前後の、渋谷の風景がばっちり映ってることにびっくりした。タワレコとか道玄坂とか、ある意味、今よりリアルな感じ」

ラブムー「それな。実写の画素はめっちゃ粗いけど、や、粗いからこそ、90年代の渋谷の空気が真空パックされてるって感じなんだよな。それは当時、しょっちゅう渋谷に通ってたっていう現実のノスタルジーも多少は含まれてんだろうけど、それだけじゃなくて、"90年代の渋谷ってこんな感じだったけど半分仮想世界感"が滲み出てる」

ふみえ「ながっ。けどそうね。当時、写メで撮ってた古い画像より"あの頃感"あるわ」

ラブムー「だからさ、やっぱ『街』って天然記念物なんだって改めて思ったね。そして当時の時代と風景をばっちりキャプチャーした有形文化財でもある」

ふみえ「そだね。でも、渋谷の空気感を抜きにしても、アドベンチャーゲームとしてすっごく面白いと思うよ」

ラブムー「そこ、詳しく頼む。自分はリアタイでやってたから、思い出補正じゃないけど、『98年に出たチュンソフトの傑作ノベルゲーム』っていう刷り込みが強いから」

ふみえ「そうだなあ……。あたしはノベルゲーわりとやる方だと思うけど、『街』みたいなノベルゲーム、これまでやったことなかった。複数主人公の群像劇みたなゲームはいくつかやったと思うんだけど、全部実写で、現実に存在する場所で——キャラクターの行動が相互に関連しあって……みたいのって他になかった気がする。逆に、ある?」

ラブムー「うーん、結論から言うと、少なくとも"実写もの"では『428〜封鎖された渋谷で〜』以外ないと思う。まあ、『428』については後回しにするとして。だからさ、もし『街』みたいのを今作るとしたら実写FMV(フルモーションビデオ)で、豪華俳優出演!みたいのにどうしてもなっちゃうと思うんだよ」

ふみえ「ああ、レトロチカとかデスカムトゥルーみたいな?」

ラブムー「そうそう。『春ゆきてレトロチカ』ディレクターの伊東幸一郎氏は『街』が好きでチュンソフトに入社したくらいだから、実写の推理ものを作るにあたって『街』を多少意識してたことは間違いないと思う。もちろんレトロチカのゲーム内容は『街』とはだいぶ違うんだけど、なんだろ、"精神的な姿勢"というか通奏低音みたいのが『街』と共通してるなって思った」

ふみえ「よーするに、今『街』作ろうとしたら、ああいう止め絵主体のゲームにはならないってことだよね。せっかく動いてる映像があるんだから、これはフルモーションビデオでいきましょうぜって」

ラブムー「そう。実写、静止画メインの長尺ノベルゲームが『428〜封鎖された渋谷で〜』以降作られない最大の理由はやっぱり「コスト」だろうし。現代においてこのやり方で撮るなら、映画とか配信ドラマだって作れるわけだから」

ふみえ「レトロチカも、静止画とテキストだけのゲームだったらだいぶ違ってただろう、みたいな四方山話を前にもしたよね」

ラブムー「でも、レトロチカはあれで良かったんだよ。フルモーションビデオの推理ADVを作ることがあの作品の出発点だったはずだから。『街』の話に戻ると、今後こういう実写ノベルゲームが作られることって、まずないんじゃないかな。よほど売れないと採算取れないだろうし。企画段階でポシャりそう」

ふみえ「だからかな。『街』プレイしてると、すっごく贅沢なゲームって感じする」

ラブムー「俺も今回、たぶん20数年ぶりに再プレイしたんだけど、想像してたのとプレイ感、だいぶ違ったね」

ふみえ「どういう風に?」

ラブムー「プレイする前は、だいぶチープに感じるだろうなって思ってんだよ。経年劣化じゃないけど、今更これは……みたいな。でも、全然そうじゃなかった。むしろリッチみ増えてる」

ふみえ「リッチみ? だからあたしが言った"贅沢"ってことでしょ。無理矢理横文字にすんなっ」

ラブムー「すいません。あとこれは前回にも書いたけど、このゲームの特徴的なシステムの2つ——TIPSはともかく、ZAP(ザッピング)がこれほど緻密で、メインの面白さとして機能してるノベルゲームってそうはないよね。シュタゲを始めとする、綿密なSFとかタイムトラベルもののノベルゲーム用語解説に『街』の影響を如実に感じたりもしたが」

ふみえ「ザッピングって、構造的にはあみだくじパズルみたいじゃない? でもこれを長い物語とテキストでやるのが凄くオリジナリティーあるなって」

ラブムー「うん、かまいたち弟切草みたいに、ひたすら選択肢の分岐で物語を進めてくシステムを多層的に進化/深化させるなら、これしかないって感じだったんだろうね。ただ、このザッピングをこの大ボリュームのテキストで実現させるのはほとんど狂気の沙汰なわけで。まあ、PS版(『街〜運命の交差点〜』)からはフローチャートが可視化されたけど、内実はずっと複雑だったろうなあ。今みたいに便利な管理ソフトもなかっただろうし」

ふみえ「……やっぱ凄いゲームなんだねえ、『街』って。ただまあ、シナリオとかTIPSには正直、けっこう寒いのもあるって感じたけど」

ラブムー「そのへんも、昨今のゲームやドラマに慣れてるお前さんの意見を聞きたかった。具体的にどのあたりが"寒い"と感じた?」

ふみえ「コメディ主体のシナリオは若干きつい感じしたかな……まあ、あたしの好みもあると思うけど」

ラブムー「ただ、それも時代錯誤な"寒"さじゃなくて、ほとんど確信犯というか、悪ノリというか、全体ではバランス取れてると思うよ。他のシナリオはどうだった?」

ふみえ「シリアスなやつは、現代でも全然通用しそうっていうか、普遍的で面白い。今もダンカンさんの末路がめっちゃ気になってるもん。あ、ネタバレしないでね」

ラブムー「やっぱり長坂秀佳氏のシナリオが抜きんでてるってことなんだろうな。実は自分もそうなんだよ。『街』のシナリオでフェイバリット3つ選ぶとしたら『シュレディンガーの手 』『迷える外人部隊』、あと『オタク刑事、走る!』。で、この3つは長坂氏自身の筆によるものなんだよね」

ふみえ「そうなんだ。でも、総じて面白いよ。古かったり寒かったりする描写も、ちゃんと"ならでは"の味わいになってるっていうか。トータルで統一感あるから、ひとつひとつのシナリオの苦手なところもぜんぜん気になんない」

ラブムー「それは『街』っていう、巨大で魅力的な容れ物を作り上げたことの証左でもあるよね。麻野一哉氏を初めとする、制作陣の力も大きいだろうなあ」

ふみえ「『428』は長坂さんや麻野さんは関わってないんだっけ?」

ラブムー「うん、違う。そうだった、そろそろ『428〜封鎖された渋谷で〜』についても少し触れておきたい」

ふみえ「『街』クリアしたら、やるべき?」

ラブムー「実はあんまり憶えてないから多くは語れないんだけど(これからやり直す予定)——やっぱ『街』唯一の後継作だし、クオリティーもきわめて高いから、ノベルゲームファンは今でも充分楽しめると思う。ただ、同じシステム、舞台が渋谷、複数主人公って言っても『街』と面白さがだいぶ異なるけどね」

ふみえ「どう異なるの?」

ラブムー「えーっと……ちょっと長くなるぞ。(ノートPCを横目に見ながら)
『428』は、ひとつの事件に向かって主人公全員の運命が磁石に鉄片が引き寄せられるみたいに集結し、収束していく。対して『街』は、それぞれの登場人物の運命が相互に影響しあうことはあっても、同じ方向に向かって進んでいかないんだよね。スクランブル交差点みたいに、すれ違ったりぶつかったりしながらも、方向も目的もそれぞれ違う。自分は『街』のそういうところが好きだったんだな……って『428』やって、改めて思ったな。ハラハラもののクライム・サスペンスみたいな感じでは楽しめるけど、俺が『428』をそれほど高く評価しなかったのは、連続ドラマシリーズの面白さ・ビンジ感を『街』のシステムをそのまま使って実現させているものの、『街』に比肩するような新たなサムシングを生み出していないこと、"群像劇"としては退行しているように思われたからだと思う」

ふみえ「それ、記事用の下書きフォルダか何かに入れてた文章でしょ」

ラブムー「さすが、我が妹」

ふみえ「要するに『街』の面白さって、"群像劇" って要素が大きいってこと?」

ラブムー「まあ、そうだね。でも、自分は『街』は群像劇であると同時に、明確な主人公がいるとも思ってて。ふみえ、それは誰だと思う?」

ふみえ「いきなし名前呼ばないでよ……誰だろ、やっぱ雨宮桂馬? 一番キャッチーな感じだったし。それとも市川? や、牛尾さん馬部さん? 1人2役出演だし」

ラブムー「自分は『街』の主人公は、プレイヤー自身と、長坂秀佳氏その人に他ならないと思ってる」

ふみえ「ん、どういうこと?」

ラブムー「『街』は3人称の群像的っていうことになってるけど、3人称って、ようは眺望的な神の目じゃん。でも、この"神"っていうのはやっぱ長坂氏だなあって」

ふみえ「あ、なんかわかる。だってTIPSにしても、地の文にしても、思いきり出てるもんね、書いてる作家の視線っていうか——キャラクターが滲み出てる」

ラブムー「そう。だから純然たる3人称視点とは言い難いんだけど、この作品においては、長坂氏が幕袖からちょっと顔を出してるような感じが見事にハマってると思うんだ。こういうノリも『428』では消えてしまったけど。シリアスさとコミカルさとユーモラスさとペーソスのバランスが絶妙に取れてる感じは、長坂氏の視線と文体に由るものだなって」

ふみえ「あと『街』やってると、「自分」って壮大なドラマとか劇のひとこまに過ぎないっていう感じを実感するのよね。"過ぎない"っていうのは、自嘲的だったり空しいってことじゃなくて、自分も他者、他者も自分と全く同じ人生のいち主人公なんだっていう"気づき"っていうとちょっと大袈裟なんだけど……」

ラブムー「お前、今日は冴えてるじゃねえか。それこそまさに、長坂氏が本作を作った動機というかきっかけらしいぞ」

ふみえ「どういうこと?」

ラブムー「ちょっと長くなるけど『街公式ガイドZAP'S増補版』からの長坂秀佳インタビューから引用する(床に落ちていた本を開いて)。

長坂秀佳氏が渋谷の電話ボックスの中にいたら、「早く出てこい」とドアを叩かれ、怒りを覚えながら、「そいつにとっての俺は電話を占拠しているただのオヤジであって、脇役に過ぎないんじゃないか……と思ったんだ。逆に、俺の視点でのそいつは、うるさいヤツだ、と感じるだけの脇役になっている。同じ状況でもそれぞれのドラマがあるんだ」と感じたことから始まった(「What's Another STORY 長坂秀佳インタビュー」より) 

——ということらしい」

ふみえ「なるほどねえ。あとさっきの続きだけど、自分や人がとった行動とか言動も、たまたまのものじゃなくて、必然なんだなあって。それで自分の何気ない行動も確実に人の運命を変えてしまってる——また、逆もしかりだなあって。『街』やるまでは、なんか自分が自分の運命を自分で決めてるって感じしてたんだけど、神様の目から見たら——きっとそうじゃないんだろうなあって。そういうことを感じさせてくれるこのゲームって、すごいなあって」

ラブムー「"なあって"4回連ねてくれるとは泣かせてくれるなあ。じゃあ、自分も一席ぶたせてもらおう」

ふみえ「ごく手短にね」

ラブムー「俺が『街』から受け取った最大の衝撃。それは、小説でもテレビドラマでもない、全く新しい「何か」を生み出したこと」

ふみえ「その"何か"とは?」

ラブムー「たとえば、俺は"文芸"や"映画"といったポップカルチャーがゲームと同じように大好きだけど、もし『街』がノベライズしたゲームだったら、ここまで長く心に残らなかったと思うのね。あるいは『街』が連続ものの実写ドラマか邦画だったとしたら……正直、20年以上経ったらすっかり忘れてしまった可能性も高い」

ふみえ「でも"サウンドノベル"っていうこの形態だからこそ、これほど息の長い——ファンの心に残り続ける物語作品になったってことか」

ラブムー「そう。くどいけど、実写、テキスト、ゲームシステム。あと、"サウンドノベル"って冠されてるくらいだから、当然サウンドもだな。で、これだけの発明をしたにもかかわらず、自分はこの作品以後、実写でこれほど驚きを与えてくれるゲームに出合えなかった。少なくとも昨年の『イモータリティ』までは」

ふみえ「『イモータリティ』についてはIGN Japanさんで長々と書かせてもらったみたいだし、今日は割愛してもらえる?」

ラブムー「はいはい。とにかくさ、『街』はドラマでも小説でもない、新しい表現方法、あるいは物語の新しい形を具体的に示唆したってこと。そして、大切なのは、これはFMVゲームに至る過渡期的な作品じゃなかったってこと。これが完成形、マスターピースなんだよ。そしてこの『街』に比肩するような実写ノベルゲームを自分はまたいつかプレイしたいって思う。いつまでも『街』を唯一無二の作品にしていてはいけない。このジャンルの新たな傑作を誰かが作るべき。できれば日本で」

ふみえ「『街』を思わせるような作品って他にはないの? あったらやってみたいんだけど」

ラブムー「俺もそう思って今回Twitterで呼びかけてみたんだよ。そしたら、ありがたいことにずいぶん集まった。ほれ(ふみえにスマホを見せる)」


 

ふみえ「だいぶマニアックなタイトルもあるね……ニイ、どれかやったことある?」

ラブムー「それが、恥ずかしながらこの中では『Road96』だけ。あと、『十三騎兵防衛圏』を挙げてる人は一番多かったね。これもそのうちやらなきゃとは思うけど」

ふみえ「やってみたいよね。ただ、ノベルゲームではやっぱりないんだね、『街』みたいなゲームって」

ラブムー「うん、『街』はやっぱり、孤高の存在と感じる。【前編】にも書いたけど、実写と群像劇とザッピングシステムとをこれほど生かしたゲームを、その後見出すことができないから。あと、『街』とノベルゲームに目がないゲームファンには4gamer.netの記事をぜひ読んでほしいね。10年以上前の記事だけど、名うてのノベルゲーム制作者たちがサウンドノベル以降、いかにしてノベルゲームと格闘してきたかがよくわかる」

ふみえ「それ、あたしもずいぶん読んだなー。それじゃあ、最後に『街』発売25周年ということで手短にまとめてくれる?」

ラブムー「コホン……『街』は自身で高いバーを設定し、それを見事に跳び越えてみせた記念碑的実写ノベルゲームだと思います。その跳躍自体は素晴らしい到達点でしたが、ひょっとしたら——"実写ノベルゲームというものの敷居を底上げしてしまったのかもしれません。それはその圧倒的完成度によって追随するような作品が出ていないことからも窺い知れます。"実写ノベルゲーム"というジャンル自体が天然記念物化してしまったという事情もあるのでしょう。しかし希代の名作である『街』は、これからもプレイした人の心の片隅にずっとあり続けることは間違いありません。そして、本作は今からでも中古でPS版、あるいは自分みたくPS VITAにダウンロードすることもできるので、この機会にぜひともゲームファンのみならず、多くの方にプレイして頂きたいです」

ふみえ「(立ち上がって)長々とありがとね、ニイ。じゃああたし、これからコメダで『街』の残り2日間やりたいからそろそろ失礼するわ」

ラブムー「みなさん、本日は我々ゲーオタ兄妹の『街・四方山話』に長々とお付き合いくださってありがとうございました。遠からずまたお会いしましょう」

ふみえ「誰に向かって言ってんの(笑)またねー」